アクセラレーターAの事例

NPO法人愛のまちエコ倶楽部

 地域の方から回収したもみ殻をくん炭にし、地域循環を実装されているNPO法人愛のまちエコ俱楽部さんにお話を伺ってきました。

 NPO法人愛のまちエコ俱楽部さんは、東近江市にある「あいとうエコプラザ菜の花館」でくん炭の生成など地域づくりを進める拠点施設を運営されています。

▼ インタビューにご協力いただいた3名のご紹介 ▼

NPO法人菜の花プロジェクトネットワーク代表 

藤井絢子さん

地域婦人会、地域生協から携わってこられ、せっけん運動を広められた第一人者。

株式会社EN2+ 梅澤美明さん

菜の花館の炭化炉製造に深く関わってこられた。日本バイオ炭普及会役員。

NPO法人愛のまちエコ倶楽部事務局長 園田由未子さん

菜の花館で農家の方や農協との関係に尽力されている。愛のまちエコ倶楽部とは別に、新たに農村資源の循環にも力を入れられている。

あいとうエコプラザ菜の花館の歴史

ーではまず、菜の花館ができるまでの歴史について教えてください。

(藤井さん)ここは滋賀県ですので琵琶湖とも関係が深く、1970年代の水環境をどうするかという時代から地球環境問題までずっと歩いてきました。はじまりは、赤潮発生など水環境が問題とされた時代に、誰かが汚したという考えだけでなく、私たち生活者も川を通して琵琶湖を汚していると気づいたときにはじまった「せっけん運動」です。また当時の知事は、市民一人一人が琵琶湖と向き合っていくため、各家庭に下水道の評価システム等を設置するという環境の専門生協を立ち上げていました。

 1980年代後半になると、エネルギーの話が出てくるようになり、てんぷら油がバイオ燃料として生かせるような開発を行いました。しかしふと農地を見渡すと荒廃していて、その反面、環境の取り組みを以前から行っていたヨーロッパでは菜の花が一面に広がっており、農家は食べ物とエネルギーのダブルインカムでやっているという話を聞いて目からうろこでした。実際に1998年に菜の花プロジェクトという名前を付けてここの町内会のメンバーと始めました。農地で作った菜種を(油として)食べる、食べた後廃食油になっても水環境を守る石鹸があり燃料にもなっていくという流れができ、地域の中に菜の花の景観が出来ると一気にみんなの中でワクワク感が出てきました。これが菜の花館の始まりです。

ーその後菜の花館が設立された経緯について教えてください。

(藤井さん)2002年バイオマスニッポン総合戦略が閣議決定され、日本の農業を活性化するフロンティアがいなければならないとして、菜の花プロジェクトがシンボルになりました。このプロジェクトは廃食油の回収などどこの地域にもできることなので、北海道から沖縄の全国、また世界に発信する基地が欲しいと強く要望しました。そこでどこに作るかとなった時、あいとうは小さい町でしたが、活発な地域住民がいる輝くべき場所だとして、東近江市に合併される一か月前に「あいとうエコプラザ菜の花館が」つくられました。これは毎年菜の花を作ってくれてた農業組合、農業者の力でした。

 より地域との関係をみせていくために、もう一つ概念をのせてほしいと言われ生まれたのが、もみ殻くん炭です。米農家さんが多く、集めやすいもみ殻は、もともと技術があり素材として活かしやすいということでした。廃食油のラインともみ殻くんたんを合わせることで『琵琶湖との関係、プラス農業』の形態が見やすくなります。そして指定管理としてNPO法人愛のまちエコ俱楽部が設立されました。

あいとうエコプラザ菜の花館での取り組み

 あいとうエコプラザ菜の花館では、 資源循環型地域づくりをめざす拠点施設として、菜の花プロジェクトという循環システムの促進やもみ殻くん炭の生成などを担っておられます。どのように地域の方と取り組んでおられるのかうかがいました。

ー農家の方との関わりで大事にされていることはなんですか。

(園田さん)菜の花プロジェクトに関して、特に菜の花の栽培については、地域の農家さんが菜種を栽培してくれているからこそ成り立つ所があるので、地域の農家さんとのやりとりはすごく丁寧に、大切にしています。例えば、菜種栽培への思いはそれぞれあると思うので、日頃の雑談の中から聞くようにしながら、菜の花プロジェクト自体の進んでいく方向性も農家さんと共有していかないといけません。会議の際にはこのような菜種油になって、地域循環の一つのアイテムになっているんですと細かに説明をします。そうすることで、菜の花プロジェクトを一緒に回している仲間であることをメッセージとして伝えています。

ー農家さん以外との関わり、例えば農協はどうですか。

(園田さん)農協さん菜種栽培に関しても全国の菜種の買取価格を気にしたりとか、私たちが絞る以上の在庫があるときに農協さんとして買い取っていただいたりとか、そういうやりとりがあるので日ごろの関係性は大切にしています。菜の花の栽培のことだけではなくて、私たちNPOで取り組んでいる、地域就農の取り組みであったりも農協さんとは深い連携があるので、日ごろのそういったコミュニケーションで関係性をつくっていくことで、いざ困った時に頼らせて頂くこともあり、関係性づくりはすごく大事だと思っています。

菜の花館で生成されるくん炭

ーくん炭の特徴と有効な理由を教えてください。

(梅澤さん)ここのバイオ炭の原料はもみ殻を100%使っています。もみ殻くん炭の表面積は大きくないのですが、粒径が一定であること、だいたい0.5ミリから3ミリくらいであることが特徴です。また構造がしっかりしていることで、土と土の間に隙間をつくってくれ、そこに空気が入ったり水を保持したりすることができ、土壌の団粒化を進めます。これが物理的に植物に対して非常にいい環境を与える効果となります。

 また根の周りの環境が良くなることで土壌微生物が大量に発生し、彼らが空気中の窒素を取り組んだり、リンの有効性・活用性を高めたりするという生物的な効果も出ます。あとはもみ殻特有の効果で、もともとシリカというケイ素の含有量が非常に多いため、シリカ肥料としても活用できる点があります。


ーそのもみ殻くん炭はどのようにつくられているのですか。

(梅澤さん)まずもみ殻は近くの農協が運営するコメの加工施設から引き取ってきます。その引き取ってくるトラックの燃料は、バイオディーゼル燃料を使用しています。引き取ってきた原料は、もみ殻のサイロにいったんため置き少しずつ炭化装置に送ります。

 ここの炭化装置は横型の攪拌連続式という方式です。不完全燃焼の状態のなかで、もみ殻が回転軸に沿って移動しながら羽によって攪拌されていきます。10分ほど中を通って、出てきた炭をウォータージェットで冷やし袋詰めします。


ー販売においてどのような促進方法をされているのでしょうか。

(園田さん)地元の広報誌でもみ殻くん炭フェアを打ち出し、地域にしっかり知ってもらうことを心掛けています。あと現在はクチコミがすごく多く、日ごろ来館して直接買ってくださるお客様が他のお客様にもご紹介をしてくださることがあります。スタッフが日々お客さんと会話することを心がけています。

 一度使っていただくと実感として良いと感じていただけることが多く、メロンを作っている農家さんの組合大量に購入してくださったり、無農薬のお米を作っている農業法人さんで毎年購入して土づくりに生かしてくださったり、そんな事例あります。

 それから、この菜の花館で菜の花プロジェクトのことを学びに研修してくださる団体さんが、研修をきっかけにくん炭のことを知り買いに来てくださる方も多くいます。

今後の展望

ー今後の菜の花館の動きや社会に対して、どのような思いを持っていらっしゃいますか。

(藤井さん)実はここに菜の花館ができたら、全国に菜の花館2号3号ができたらいいなと当時は思っていました。しかし16年経ってもできていないので、難しいのだろうと思うんですが、でもこの場所ができて良かったのは、ここがなければ議論する場所がなかったですし、みんなが来ていろいろな知恵とパワーを持ってきてくれることです。それは私たちに欠けていること、先に進めなければならないことの材料にもなります。

 地球環境をつぶさないためには、ここはもっと輝かなければならない場所です。今日のような機会があり、いろいろと実践して菜の花館の若い職員は年ごとにすごく成長していると思うんです。皆さんにお願いしたいのは、関係性を持ち続けていただくこと、ここのチームだけではできないこともいっぱいあります。専門的なことやほかの地域のアイデア、たくさん持ってきていただいてまずはここがより育っていくことを願っています。


ー今後、菜の花館や菜の花プロジェクトをどのように運営されていきたいですか。

(園田さん)菜の花プロジェクトの地域資源循環の仕組みが、すごく分かりやすい地域の人が関わる入口がたくさんあるものだと思うんです。廃食油の回収、石鹸をつくる人、バイオ燃料のバスに乗る人、バイオ燃料でイルミネーションのお祭りをする人、そこに楽しんで集まる人、すべて市民です。さらにまた農地を耕す農家がいてくれて、菜の花が咲いた時に見に来てくれる市民の人がいて、絞った油は地域の人が美味しく食べてくれたり、学校給食で年に一回使われて子どもたちもそれを知る機会があったり、絞り粕は地域のお茶農家さんが使っています。そしてまた美味しく料理した廃食油が回収されてという、ぐるっと循環の仕組みに関われる入口がたくさんあります。

 そういう循環をちゃんと次の世に繋いでいくにも、私たちが心掛けないといけないのは、常に市民の人たちと回していくという心構えだと思っています。NPOが単独で動くのではなく、協同でこのプロジェクトをよりよくし、ステークホルダーをさらに豊かにしていくことが、この地域だけにとどまらず全国でいろんな地域資源の循環の取り組みがたくさん生まれていくきっかけにもなると思っています。その点でNPOは、この仕組みがあることに感謝しながら、市の施設で市の職員さんとだけやるよりも、NPOの柔軟性を活かして沢山の人と関わって動かしていくことが重要であると感じています。


ーそのなかで、課題に感じていることはございますか。

(園田さん)課題としては、スピードアップしていかなければならないのではということです。地域資源循環の仕組みなど持続可能な社会づくりをするには、足元の暮らしを自分たちでしっかり見直し暮らし方を変えることが必要だと思うんです。その分、丁寧に暮らしを作ることはすごく時間がかかります。15年やっていても、本当に丁寧な積み重ねで今やっとここと感じるので、今脱炭素の社会に向けて世界で動かないといけない中で、もっとスピードアップしてしなきゃいけないこともあると思っています。そこが社会の動きに間に合うかという焦り、もっとできることがあるんじゃないかという思いがあるので、そこが課題の一つです。