山梨県農政部にインタビュー

国際的な枠組みである4パーミルイニシアチブに参画されている山梨県にお話をうかがいました。

このページではインタビューについてまとめています。

山梨県が行う4パーミルイニシアチブの詳細については以下リンクから

「4パーミルイニシアチブについて」山梨県庁HP

4/1000イニシアチブの用語説明

山梨県農政部 部長 坂内 啓二さん

4パーミルイニシアチブを取り込もうとされた当初、山梨県にはどのような課題がありましたか。


ー山梨県は果樹王国ということで、桃とかすももとか葡萄が日本一なんですけれども、例えばシャインマスカットが色んなところで作られ出していて、日本だけではなく、海外でも中国産とか、韓国産など非常に産地間競争が激化しています。品質は自分たちは一番いいと思ってるんですけれど、それだけでは戦うことが厳しい状況にあったところで、おいしさだけではなくプラスアルファのものを何か探していたという背景があります。



その後の経緯について教えてください。


ー産地間競争のため何かオリジナリティを出していかなければいけないところで、今、環境が注目されてますので、環境で何か付加価値を高められないかと考えていました。

 それで4パーミルイニシアチブに取り込もうと思ったわけですが、そのきっかけは、2019年9月のグレタトゥンベリさんのスピーチを見まして、地球温暖化の問題を先送りできないと痛烈に大人たちを批判したようなスピーチがあって、その中で特に私が印象に残ったのは

"People are dying. Entire ecosystems are collapsing. We are in the beginning of a mass extinction. And all you can talk about is money and fairytales of eternal economic growth. How dare you!" というメッセージです。今生態系が崩壊しつつある今、人間も絶滅の危機に瀕していると、そういう状況にあっても、大人たちはお金の話と経済が永遠に成長するというおとぎ話ばっかりしてると、そんなふざけたことを言うんじゃないっていうことでその当時16歳ぐらいの女の子がスピーチしたんですね。

 山梨のおじさんも、何かしなきゃいけないと意気に感じて、いろんな本を調べている中で、この4パーミルイニシアチブっていうものの取り組みを知りました。農業サイドから地球温暖化の抑制に貢献できる取り組みだとわかり、4パーミルイニシアチブの事務局長に私がメールをして、それで、いいですよということで参加できた、という経緯があります。



では、当初の課題を踏まえた目標設定はどのようなものでしょうか?

ーまずは美味しさの先を行く新たな付加価値を作って、今SDGsの流れやエシカル商品を手に取る環境意識の高い人たちもターゲットにしています。尚且つ、他の産地と毛色の違う取り組みをプラスアルファにすることで、輸出も含めて山梨の果樹山地としての地位を一段上に上げたいという二つです。



山梨県では、やまなし4パーミルイニシアチブの認証制度を用いたブランド化が実現されています。4パーミルイニシアチブを政策立案に組み込むにあたり、主要なターゲットにされたのは、どのような方々だったのでしょうか?

ー環境に意識の高いグレタトゥンベリさんのように若い人と女性を主要なターゲットとして、当初は進めていました。彼らに訴求力のあるようアニメーションをつくったり、県内の農業系の高校に出前授業をして、将来担い手となる人々の声も聞いたりしていました。

 しかし市場調査を実際に店頭やウェブでやっていくと、実際にエシカル意識の高い人は、50・60代の方で、特に女性が意識が高いという結果でした。若干想定していたものとは違った印象を受けたので、もう少し分かりやすく、そもそも4パーミルって何?という人が大半だったこともあり、そういうものをしっかり伝えていくようにしています。わかっていただければ、値段が高くなるわけではないので、この農産物、フルーツを食べることによって、地球環境によく地球を幸せにできますよとPRして粘り強くやっていきたいなと思っています。



なぜ4パーミルイニシアチブが有効であると考えられたのでしょうか?

ー4パーミルイニシアチブの事務局本部が求めているのは、地球温暖化抑制と食料安全保障について両方対応していこうということです。

山梨県が取り組んでいるのは、当然、炭を使うことによって土壌が大気中に放出される二酸化炭素を土の中に固定できるという地球温暖化の抑制の方向です。あとは炭にしても草生栽培にしても土を豊かにできることは、例えば化学肥料の低減に役立ったり農薬を減らすことができたり、地球環境に負荷を与えないで、なおかつ生産性も上げられたりするということで温暖化抑制と食料安全保障を両方達成できます。

 また、今まで枝を毎年野焼きをして煙がもうもうと立ってしまっていたものが、無煙炭化機を使えば煙の量が抑えられて周辺の環境にも良いということが最近分かってきたので、その点を含めても有効だと思ってます。


4パーミルイニシアチブは農業政策の中でどのような位置づけですか?

ーこの4パーミルイニシアチブにしてもアニマルウェルフェアにしても、ストレスケアの事業にしても、一貫しているのは持続可能性の追求というところです。4パーミルイニシアチブやアニマルウェルフェアのような小回りの利く高付加価値なものをつくることによって、大規模効率化は一つのメインストリームとし、サイドストリームとしてこのような取り組みもしっかり位置づけておかないとリスク分散にはならないと考えています。


山梨県の取り組みの一つに現地実証があると理解しています。農家の方へ促進し、実証の段階で注力されていたことはありますか。

ー4パーミルの取り組みは最初に理念先行型で行ったので、いかに農家さんに使い勝手の良いものにしていくかというのが課題でした。机上の空論にならないよう、効率的な方法や炭の効果などについて農家さんと一緒になって考えていました。例えば無煙炭化機の利用は、一度にに燃やせないので、少しずつ燃やして消火してと手間がかかります。それを農福連携で、枝集めをするなど、実施しています。

 また園地できた剪定枝を全て炭にすると国の補助金がもらえるので、県では無煙炭化機の購入費用の半分も補助しています。お金の問題としては、(農家の方にとって)ある程度メリットが出てきていると考えます。

 あとは全部が全部を炭にというわけではないので、草生栽培をしたり、剪定枝をチップにしたり等取り組みがあるので皆含めて、ブランド認証して、認証物をふるさと納税の返礼品や知事が行うトップセールスで使い、多様な販売促進も併せてメリット感があるようにしています。


続いて、山梨県の提案により設立された4パーミルイニシアチブ推進全国協議会に関して、設立の経緯や目的を教えていただけますか。


ーきっかけは知事からの要望で始まり、目的としては既に炭以外でも各都道府県いろんな取り組みをやってますので、共有して良いものはみんなで真似ていこうと考えていました。

 地球温暖化の問題というのは地球規模の課題なので、山梨県でやってもせいぜい1万ヘクタールぐらいしか樹園地がないので、地球規模で日本全国でやっていかなきゃいけない問題だという認識です。



4パーミルイニシアチブ推進全国協議会において、他団体と相互の連携により、どのような成果を発揮されていると考えられますか。

ー総会では各県からの優良事例を紹介してもらったんですが、炭一つとっても、山の中で取り組まれてる例だとか、畑や水田でもやってる例だとか、色々な例がありまして、うちも真似できそうだというのもありました。

 あとは、不耕起栽培の取り組みも、山梨県から発信することで、果樹園だけでなく、畑作地帯に広がるという横展開も考えられます。

各県も山梨県がやってるような認証制度をやりたいと問い合わせが来ていますので、お互いがwin-winな関係になってるんではないかと思ってます。



では最後に、他の地域で同様の取り組みを広げていく際

に工夫すべき点や留意点について教えてください。

ー他の地域例のお話を伺ってますと、試験研究レベルではかなり進んでいるっていう印象を持ちました。ただ一方で、行政と繋がってないところが大半で、研究者レベルでは先進的にやってらっしゃるんだけれども、行政とあまり繋がっておらず政策として実行されないのだろうなというところもあります。そういう点では、山梨は行政から行っていますので、スピード感が違うかなという印象を持ちました。

 あとはせっかく4パーミルイニシアチブという国際組織なので、国際的にも日本のプレゼンスを示す必要があります。国際会議の場でもしっかりと情報発信し、日本の農産物が単純に美味しいだけでなく環境にも配慮し両方を同時に満たしてるとして、2030年までに輸出額5兆円目標と国の方で掲げられてますけども、輸出にも弾みがつくようにしていくべきだと思います。

 食料安全保障の観点でも、山梨みたいな家族農業の1ヘクタール未満で比較的小規模農家が特に発展途上国で多いので、小さい面積だけでも高付加価値なものを作れるとして所得の向上に繋がるような農業のやり方によって国際貢献に繋がるんじゃないかと考えており、国際情報発信はしっかりやっていきたいなと思ってます。


※撮影時のみマスクを外しています