アクセラレーターAの事例

亀岡市

 本ページではインタビューを通して、自治体の立場からカーボンマイナスの普及に向けた取り組みを行われていた亀岡市の事例を紹介します。

亀岡市での取り組みの概要

 亀岡市は、2008年度より周辺大学や地元関係機関などと連携して「亀岡カーボンマイナスプロジェクト」を始動させました。

 本プロジェクトは、放置竹林の竹などで作ったバイオ炭による炭素貯留を通じて、温室効果ガス削減と地域活性化を両立させる社会システムの構築を目指すものです。地域の未利用バイオマス(放置竹林竹や間伐材)を用いてバイオ炭を生成し、それを土壌改良剤として農地に埋めます。そして、その農地で育てた野菜(通称クルベジ)の普及促進に向け、地元スーパーでの販売、環境教育・食育として保育所・小学校での紹介等を行っています。(出所:総務省 施策事例

(出所:総務省 施策事例に基づいて筆者作成。)

▼ インタビューいただいた方のご紹介 ▼

亀岡市役所 元職員 田中 秀門さん

 本ページは、亀岡市役所の元職員である田中秀門さんにお話を伺い作成しました。田中さんは亀岡市役所の企画部門で、バイオ炭の普及に向けた取り組みをされてきた方です。市役所内の環境・農林・教育・福祉部門といった様々な部署の調整を行い、農家・小売店・学校といった外部の組織とも数多く連携を進めてこられました

取り組みを始めた経緯

ー亀岡市でバイオ炭を用いたカーボンマイナスの取り組みを始められた経緯について教えてください。

(田中さん)ご存知かもしれないんですけど、亀岡市は7割が山林なんです。当然バイオマスがたくさんあるのですが、それを燃料化するのには膨大なコストがかかりました。だから手がつけられない状況にあったんですね。そういったときに、かねてから私がお付き合いがあった柴田先生の方から、亀岡でカーボンマイナスのプロジェクトをできないだろうかというオファーがありました。

 実施するためのハードルとして、炭素貯留をする4㏊以上の一団の農地が必要だということがありましたが、農事組合法人によって、放置農地等を一団に固めて換地された土地が保津町にありました。また、その法人自体も新たな農業を模索していたところでした。こうしたお話がうまくマッチングして、進めていこうということになったのが、この取り組みの始まりです。


ー自治体という立場から、カーボンマイナスの取り組みをする際に大切にしていたことがあれば教えてください。

(田中さん)カーボンマイナスプロジェクトという名前なので、環境問題的なことが連想されると思うんです。ただ、自治体の政策として考えれば、単に環境問題だけではなく、色々なアクターというか、大学や企業、商業者、農業者、市民、これらの人たちが連携して、パートナーシップのもとに一つの目標に向かって環境をキーにしたまちづくりをしていくんだという大きな枠で捉えた方が私は良いかなというふうに思いますね。よく今、SDGsということで言われてますが、まさにこの取り組み自体が、SDGsに合致した取り組みじゃないかなというふうには考えております。

具体的な取り組み内容

ー亀岡市ではどのような政策によりバイオ炭の普及を推進したのでしょうか。

田中さん)やはり環境というのをキーワードにしながら、いかに持続可能な政策的な仕組みをつくっていくかということが一つ大きな目標でした。このカーボンマイナスプロジェクトは、農地に炭素を貯留をして、結果的に二酸化炭素を抑え込んでいくというものです。そのため、農業者の方々にバイオ炭を土壌改良剤として埋めてもらったんですけども、年間ルールを決めました。年に100キロカーボンを農地にシンクさせると、その炭の代金分を行政の費用として、農業者に補填をしていったというのは一つの大きなポイントかなというふうに思います。


ー製炭業者や農家の方との関わりも深いと思います。そうした方々への支援やコミュニケーションはどのように行われていましたか。

(田中さん)農業者というのはあくまで個人商店です。ただ、プロジェクトを進めるにはやはり複数の農業者が必要です。そこで、取り組みに携わる農家で亀岡クルベジ育成会という、ネットワーク組織を作りました。若い農業者にも、熟達農家というかプロフェッショナルの農家さんにも声をかけ、入っていただいて、一つのグループを作りました。そこでどういったものを作ろうかという生産の調整だったり、悩み事などを、気兼ねなく話し合える環境を作りました。脱サラして亀岡市に移住している若い農業者もかなり多かったので、やはり悩みごとを聞いてもらえ、アドバイスがもらえるという環境が一つ大事かなというふうに思いましたね。


ースーパーなど小売店との関わりはどのようにされていましたか。

(田中さん)農業者の方っていうのは野菜を作るのはやはりプロであり、それをどう売っていくかという販売経路をみつけることに関しては課題です。例えばJAさんに卸していったりということなんですけど、我々がやってたプロジェクトではやはりできるだけ直接消費者に届けていくという形をとっていきたいと考えていました。

 亀岡市内に大きく展開しているスーパーがありまして、そのスーパーが地元貢献やCSRも含めて、地場野菜を置きたいというお話を以前にいただいていました。そこで、直接私がスーパーへ行って役員の方にお願いしました。すると快諾をいただいて、その店舗に置けるようになりました。そのスーパーさんに手数料は払いますけど、専属のクルベジのコーナーを自ら用意していただいて、そこで販売がスタートしたっていうところですね。

最後に

では最後に、今後ほかの自治体が同様の施策を行う場合の工夫や留意点があれば教えてください 。

(田中さん)自治体によって、環境がそれぞれ違うと思います。できる作物の気候であったり、地域地域の特性はやっぱりあるとは思います。ただプロジェクト自体が、もう10年近くやってきて、先立ってのIPCCの京都の会議の中で、この炭素貯留というのが実際にCO2を減らすんだよということが認められ、インベントリの中に掲載されました。また日本政府の方でもJ-クレジットの手続きをされています。一番大きなポイントは、お金の流れが変わって、環境に貢献したことによって資金管理をうまくできるようにしていけることだと思います。

 また、やはり「環境、環境」といって「野菜、野菜」でいくとやっぱり小さなくくりになってくるので、環境をキーとしたもっと大きなフレームの地域づくりを考えていくのが自治体としての政策のあり方じゃないかなというふうに思っています。だからバイオ炭で育てた野菜を学校給食に出すといった、食育分野に広げていく等、自治体としていろんな取り組みの角度があると思うので、それぞれ工夫されることが大事だと思います。

 それと、やはり行政主導にならないということが一つのポイントかなというふうに思います。いわゆる大学さんも含めて企業等と、いかにより良い上下関係のないパートナーシップで、こういうプロジェクトを進めていく、協働のまちづくりは、こうしたことだけでなく他にももっと広げていけるんじゃないかなということを感じます。

田中さん、インタビューに協力をいただいた皆さん、ありがとうございました!

(※撮影時のみマスクを外しております。)