カーボンマイナスのプラットフォームとビジネスエコシステム

カーボンマイナスのプラットフォームとビジネスエコシステム

 昨今、耳にすることが増えてきたプラットフォームやエコシステム。本プロジェクトでもプラットフォームの形を活用しています。このページではプラットフォームやエコシステムとはどんなものかの理解を深めるとともに、カーボンマイナスプラットフォームについても解説をしていきます。

プラットフォームとは?

 プラットフォーム(PF)とはIBM社に代表されるような垂直統合型の価値づくりからインテル社やマイクロソフト社に代表されるようなコンピューター産業が中心となって1990年代に移行した新たな産業活動基盤です。このようなPFの特徴として、①ネットワーク効果、②多様な主体の結合による価値の創発があげられます。

①ネットワーク効果

 これは経済学で言うところの外部効果のことで、市場を介さずにお互いに影響しあう効果のことを言います。プラスの効果としては養蜂家と果樹園が隣り合っているとお互いに良い関係が築かれることなどがあげられます。また、マイナスの効果としては近隣に工場ができた際に排出される煙のコストを工場が負担しないことなどが想定されます。

②多様な主体の結合による価値の創発

 これはPFの本質ということが出来ます。國領氏(2013)の言葉を借りれば、創発的な価値創造と潜在的な取引の組み合わせいえるでしょう。バイオ炭を中心としたPFにおいても想定している・していない創発的な価値や出会いによる潜在的な取引が生まれることが期待されています。

ビジネス・エコシステムとは?

 ビジネス・エコシステムとは、自然科学のエコシステム(生態系)のコンセプトを経営学に取り込んで生まれた価値創造のシステムとして全体的な戦略観を示す概念です。

 ここで、エコシステムにまつわる小噺を一つ紹介します。

 アメリカのイエローストーン国立公園で1800年代後半には確認されていた野生の狼が1920年までに絶滅してしまいました。これにより、エコシステムが壊れ、鹿が増加したことによって草木が枯れることを科学者が警告するまでになりました。そこで1974年に14頭の狼をイエローストーン国立公園に再度迎え入れました。すると鹿の増加が止まり、草木も正常な状態に戻り、生態系が復活したというエピソードがあるのです。

 経営学に話を戻すと、エコシステムの中でもコアとして働く、すなわちエコシステムの中の多様なメンバーを結び付けていく「キーストーン企業」の役割が重要になってきます。

カーボンマイナスのプラットフォームとビジネス・エコシステム

 本プロジェクトのPFは、「カーボンマイナスプラットフォーム」で、バイオマス資源やバイオ炭及びJ-クレジットの流通を担います。

 このプラットフォームを利用することで、カーボンマイナスPFでは「提供サイド」と呼ばれるバイオ炭の生産や貯留を行う参加者と、提供サイドによって生産された農産物やクレジットを利用する「活用サイド」、彼らの活動をサポートする「アクセラレーター」といった参加者が協調・共生しながら成長していくことが期待されています。

 それらの実現のためにカーボンマイナスPFには、バイオ炭の品質保証や、炭素貯留のデータベース・クルベジのようにブランドの運営といった機能を備えています。また、PFは「多様な参加者を結び付けることで価値を創出する」という点でも価値があり、マッチングやサポートといったネットワークがあります。

【提供サイド】

 大きくはバイオマス資源やバイオマス発電といった資源を生産する「生産サイド」と、農地などバイオ炭を活用した炭素の農地等への貯留を行う「貯留サイド」の2つに分けられます。両者は緊密に連携しています。

(バイオ炭について詳しく知りたい方はこちら

 生産サイドの中でも例えば農家さんがノウハウを共有したり、ほかの農家の指導をしていくといった活動ができるようになるとアクセラレーターとしての振る舞いができるようになってきます。アクセラレーターはPFを大きくしていくという意味でとても重要な存在です。

【活用サイド】

 活用サイドもクレジットを利用する「カーボンオフセットサイド」とカーボンニュートラルな野菜など提供サイドから供給されるものを商品として活用する「ブランドサイド」の大きく二つに分けられます。経営に環境配慮を求める傾向は日に日に高まっており、今後カーボンオフセットなどのニーズは極めて高くなっていくことが予想されます。

①自社の意思、②金融市場、③顧客 の3つの視点から見ていきましょう。


①自社の意思

 これは経営方針や経営者の意思として、「環境を守る事業を営む」ということです。事業の意義を従業員が感じられるということもありますが、環境について教育を受けてきた現代の若者の中には環境への意識を強く持っている人も多く、採用活動への影響もあるでしょう。

②金融市場

 これは市場と言い換えてもよいでしょう。ESG投資のように、サステナブルな企業であるかが投資の基準の一つとなり、サステナブルでなければ投資自体を控えるといった行動が見られます。つまり、この点に積極的な企業は時価総額などの企業価値にも好影響があることが、間接金融においても融資などで有利に働くことが予想されます。一方でこの点に積極的でない企業が企業価値向上の制約や、資金調達の問題を抱えることが予想されます。

③顧客

 世界的にも世界的にもApple社が2030年までにiPhoneのサプライチェーンを100%カーボンニュートラルにすることを打ち出したり、ネスレ社もネスプレッソコーヒーを2022年までに100%カーボンニュートラルにすることを発表しています。当然日本の部品メーカーも再生可能エネルギーを活用するなどの対応が求められます。将来的には顧客はカーボンニュートラルを基本的な製品の価値として認識するだろうと考えられます。そのため、カーボンプライシングや、排出される二酸化炭素をコストとして認識するなど、今後「環境会計」が進展していくでしょう。

 以上のような背景から、本PFは活用サイドにあたる企業・団体にとってオフセットを活用したり、自社でカーボンマイナスに取り組んで組織内でオフセットするといったことを可能にする場・機会としてとらえることが出来ます。ほかにも、自社で実施したノウハウの水平展開をすればアクセラレーターとしてカーボンマイナスの社会実装に向けたサポーターとしての活躍の機会も見込まれます。具体的に、飲食業や小売業といった業界であれば、調達先の食材や商材をエコなものにするといったブランド活用ができるでしょう。先行事例としては、京都府亀岡市で行われているクルベジがあげられます。

カーボンマイナスの価値は?

 本PFは、カーボンマイナスの社会実装に向けて、「提供サイド」と「活用サイド」の両者だけではなく、パートナーとしてのアクセラレーターといった参加者と協調・共生することで、成長することを目指しています。そしてそれらを実現するための「機会の創出」と「新たな価値の創出」をすることが出来るという点がカーボンマイナスPFの価値と言えるでしょう。

引用・参考文献

イエローストーン国立公園ホームページ「狼の再導入」(最終閲覧日:2021年9月7日)

・今井賢一(1994)「オープン・アーキテクチャ時代の産業組織と企業経営」『InfoComReview』1994年冬季特別号,pp.5-11

・國領二郎(2013)プラットフォームの価値」公益財団法人日本マーケティング協会「マーケティングホライズン」2013年2号所収